2020/07/22 10:00

1999年夏

叔母と、叔母の大家族との生活が始まり、地元の中学校へ海外からの短期留学生としての日本の学校生活が始まった。
初日から先生に髪の毛の色で注意をされた。
赤茶色に染めてあった髪の毛を黒にしてきなさいと言われ、凹んだ。
お化粧もしてはいけない、アクセサリーもしてきてはいけない。
髪を縛るヘアゴムは黒か茶色か紺か。
制服のスカートは短くしないように。ワイシャツのボタンは上までしっかりとめるように。

ルールが多すぎて目まいがする。

二年生として案内された教室に入ると、クラスメイトはみんな席についていた。
みんなが同じに見えた。はっきり言って不気味だった。個性が全くない世界。
信州の小学校の方が個性があった気がする。
きっとそれは制服がなかったからだ。
黒板の前に先生と並んでぎこちない自己紹介をして、窓側の指定された席についた。

こんな場所で私は貴重な夏休みを一ヶ月間も過ごさないといけないのか。
今さらながら両親に怒りがこみ上げてきた。

私にいったいここで何を学べというのか。

父の言葉を思い出していた。
”アメリカにはアメリカのやりかたがあるように、日本にも日本のやりかたがある。
郷に入れば郷に従え。色んな文化を尊重して、自分の世界を広げなさい。広げた世界から、自分の世界を決めない。”

なにやら難しいことを言われた気がする、窓の外をボーっと見つめているうちにベルが鳴った。

先生が教室から出て行ったとたんに、私は一気にクラスメイトに囲まれた。
自己紹介から、質問攻め。私は頑張ってニコニコする事しかできなかった。

トイレにも女子がついてきた。
教室の移動もついてきた。
廊下を歩く度に他のクラスの窓から見られた。
私はまるで動物園に保管された生物になった気分だった。
注目、には嬉しい注目と、不愉快な注目がある。
これは、不愉快なものだった。
海外から来た子、アメリカから来た子、英語が話せる子。
小学校での短期留学と同じで、最初はみんな興味津津だが、
2-3日もすればあっさり興味がなくなるものだ。

案の定、1週間が過ぎたころから嫌がらせが始まった。
事の発端は3年生のとある男子生徒。
昼休み、私は毎日教室で過ごしていた。
手紙を書いていた。
手紙というよりも、もはや日記だった。
初めはみんなが私が何を毎日書いているのか、気になって見ていたが、
英語だし、読めないし、私は笑うだけなのでつまらなくなり、
1週間もたつと教室は私と、アニメを書く独り言の多いオタク系女子だけだった。
この子は未だに覚えている。丸顔の眼鏡ちゃんで、ぽっちゃりしていて、いつもぶつぶつ独り言を話していた。
友達もいなくて、毎日一人で過ごしていた彼女に、私は魅力を感じていた。
その日は、彼女が妙に明るくてにやにやしていたからか、
私は手紙を書くのをやめて彼女の席の前の席に座った。
びっくりしたのか、”な、なななな何の御用ですか。”と私に言った。
”奇麗な絵をかけるあなたがうらやましい。私は絵が描けないから。”と、片言な日本語で話した。
”ええええ!どうしてかけないのですか??”

え?
そこ聞く?w
なんて面白い子なんだろう。
普通なら、”ありがとう。”とか、自分の絵の事を話してくれるはずなのに。
彼女と話してると自然に笑えていた。彼女も何故かけして私と目を合わさないけど、にやにや、くすくす笑ってくれた。
彼女となら、友達になれるかな。
短期留学が始まって1週間、なんだかやっとホッとできた瞬間だった。
その時だった。

”もっちー。もっちー。こっち向いて”

廊下の窓から声がしたので見ると、いつの間にか男子生徒が何人が居た。
見たことがないから、クラスは違う。
名札の色が黄色い。3年生だ。
この中学校では1年生は青の名札、私たち二年生は白い名札を胸ポケットの真上あたりに付けた。

”わあ!やっぱり持田香織に似てる!めっちゃ可愛い。”

だれだそれ?私がボーっとしていると、アニオタちゃんが急にてきぱきと机を片付けだして、下を向いたまま私に小声で言った。

”早く離れて。私と話すと、虐められるよ。”

アニオタちゃんはちょっと怒ってみえた。

良くわからなかったが、私は自分の席に戻った。
すると3年生の男子が数人入ってきて私のところで座り込んだ。

”ねーもっちー。日本語話せるようになった?僕に英語教えてくれない?”

”私はもーちーじゃないよ、?”奇麗な顔立ちの少年だったが、私は奇麗な顔が苦手だった。
怖かった。

”あー、ごめんな!歌手の持田香織に似てるんだよじぇいちゃんは!知ってる?シンガー!”

”しりません、”

そんな他愛のない話をしてただけだった。

でも、その次の日から正式に始まった。

母が見ていた日本のドラマに出てくるような虐めが。

話しかけてきたのが、3年生で一番人気の男子だったからだ。
ただそれだけが虐めのきっかけになった。